最近、農業研修(農業インターン)の申し込みを沢山いただいており、ありがたいことだなあ、と感謝いたしております。椛島農園にご興味を持ってくださってありがとうございます。ご縁に感謝いたします。
本当は「農業インターンシップ」のメッセージの欄に書きたかったのですが、スペースの制約がありますので、こちらで、農業研修(インターンシップ)をお考えの方へのメッセージとして、私たちが考えていることをまとめてお伝えできればと思います。もちろん、日本全国に、いろいろな考えをお持ちの素晴らしい農家さんが沢山いらっしゃいます。熊本の、片田舎の、南阿蘇で新規就農から14年たったぼちぼちの農家、という立場から、ちょっと偏った意見かもしれませんが、普段感じていることを書いてみたいと思います。
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皆さんは、どのような農業スタイルを、そしてどのような暮らしを営んでいきたいと考えていらっしゃいますでしょうか。
「まだ幅広く見ている時期」という方や、「土地利用型で大規模にやりたい」という方、はたまた「自給自足に近いような小さな暮らし・経営がしたい」という方、「畜産がしたい」「ハウスで超高品質のものを作ってブランド化して、法人化したい」という方…。十人十色でいろいろなお考えがあると思います。
人には、それぞれ適性や能力というものがあります。時にはそのことを突き付けられると悲しくなることもありますが、それもまた丸ごと受け入れて自分の農業スタイルや暮らしを創っていける自由が、農業という世界にはあると思います。しっかり選んで、ご自身にとってストレスの少ない営農ができていければ素敵なことだと思います。
私たちの場合は、「夫婦が力を合わせて働いている姿を子供が見られるような家族経営」「米・野菜50種・卵という、自給自足の延長のような有機少量多品目」「消費者のご家庭へ直接販売を軸に、契約栽培も増やしていっている現状」「夫婦+パートアルバイトさん若干名で売り上げ1000万円位を目安とするぼちぼちの経営」「随時、農業体験や、就農希望者、旅人や、移住希望者などを受け入れていく、渡り鳥のとまり木のような空間作り」というスタイルで農業を行っています。
経営の面だけを考えると、少量多品目という農業スタイルは、明らかに非効率です。育てる品目をある程度絞った方が明らかに効率的です。私の場合は、20代の半ばにたまたまこの世界に出会って、気が付いたら流れで30歳の時に就農していました。いろいろな農業スタイルがあることも知らずに…。「自然の中で地に足をつけて暮らしたい」「何かに属して自分の居場所を見つける、のではなく、自分の居場所を自分自身で創りたい」という気持ちが強くて他を幅広く見るという選択肢すら持っていなかったです。
「こういう農業がしたい」とご興味を持ってくださってうちにお越しになられる方が沢山いらっしゃいます。やはりそういうふうにおっしゃって下さると、「この農業スタイルも捨てたもんじゃないな」と素直にうれしい気持ちになります。しかし、そういう皆様にお会いすればお会いするほど、課題を突き付けられるという現状があります。
一言でいうと、この農業スタイルでは、「なかなか食えない」のです…。うちにお越しになる方は、「阿蘇で、少量多品目で、有機で」というお考えでいらっしゃる方が多いのですが、いつも「阿蘇でなくても、少量多品目でなくても、有機でなくても」いろいろなやり方があるので、よかったら出来る限りいろいろなスタイルをご覧になった方がいいと思います、と申し上げています。そして、お話をお伺いして、他の農家さんや、半農半Xの暮らしをされている方を紹介したりすることもあります。
大消費地の都市圏に近い地域ならまた全然違う雰囲気だとは思うのですが、地方の農村で、出荷グループに属さずに独立して販売まで行うのは、なかなかにハードルが高いです。うまくいかなくて挫折することも多々ある世界です。何より体力と、そこそこの資金、そこそこの経営のセンス、そして田舎ならではの人付き合いを最低限こなす力も、必要です。また、空き家や農地を見つけること一つとっても、運という要素がどうしてもあり、計算が立ちくい世界です。
せっかく興味を持って来てくださったのに、「なかなか厳しいですよ」と言わざるを得ない現状に、複雑な気持ちでいます。「有機で」というご決意が強い場合には、大消費地の近くでない限りは、全国各地にある、共同出荷を行っているグループ内の研修生として農業研修を受けられてから品目を絞って独立するのをお勧めします。もちろん、グループに入ればそれで安泰、という甘い世界では全くないと思いますが…。
それにしても…、こんなことを書いてしまうと、なんだか「有機・少量多品目・直売・独立経営」という世界が本当に夢がない世界のようになってしまい、申し訳ないです…。でも一方で、やはりうちの近くにも同じような「有機・少量多品目・直売・独立経営」というスタイルでその方らしく自分の人生を歩んでおられる素敵な方が何人もおられます。いばらの道と分かっていながら進んでしまうほどの魅力がある世界なのでしょう。うちも、全国に沢山おられる、そういう農家の一つなのだと思います。そしてもちろん、その農家さんたちの中には、高品質のものを安定的に大量に出荷する技術や経営基盤を持ち、大成功を収めている方が沢山おられるのも事実です。
全国どこでも中山間地は同じだと思うのですが、当地、南阿蘇村でも、少子高齢化と耕作放棄地の増加、獣害の増大が顕著です。条件がよい、基盤整備された田では、大規模な繁殖牛農家さんが牧草やWCS(牛の餌用の稲)を作付けして農地を守っていますが、ちょっと山のほうに行くと、すごい勢いで耕作者の高齢化が進んでおり、10年後はどうなってしまうのか、と恐ろしくなってきます。国立公園内にある村なので景観も素晴らしく、人も温かく、山裾の新しい住宅地のエリアには移住者の方がどんどん入ってきていらっしゃいますが、集落の中は本当に少子高齢化になってきて、このままでは明るい未来を感じることができません。こんなに素晴らしい村なのに、と不思議でなりません。
うちを足掛かりに、移住して農業を始める方がいてくださればなあ、と常々考えています。過去に、うちで研修をされて近所で就農し、頑張っておられる方もいます。協力しあえるとてもよい関係を築いています。その方に続く若い方が来てほしい、とは思っていますが、(すぐに借りられる)空き家が無いとか、実際にこのやり方でこの土地で食べていくのは厳しいという現状があり、そのような、当地での就農前提の研修の方を受け入れすることも、何年も控えてきました。しかし、そうも言ってられないくらいに農家の高齢化が進んできており、どうしたものかと頭を抱えています。
そういう現状を踏まえて、今、この阿蘇という地で、私たちができることは何か、と日々考えています。とにかく、目の前の、できることからやっていかないと何も始まりません。そういう気持ちで、私たちは、農業インターンシップやウーフという制度を利用して、人の受け入れを続けてまいり、10年間の間に、100名以上の方が1週間~9か月間、滞在していかれました。
まとめです。「お、これは、私かな。僕かな。」という方は、どうぞ、お気軽にご連絡ください。
・とにかく一度農家の暮らしというものを体験してみたいという方
・九州や、熊本、阿蘇に移住を考えているという方、その足掛かりが欲しいという方
・半農半Xをしていって、田舎で生活してみたいと考えている方
・「このような農業スタイルは大変といいますが、どのくらい大変か体験してみたい」という方
・「大変なのは何軒も農家さんを見てわかっているが、それでも、どうしても、就農したい。とにかく具体的な技術を学びたい」という方
せっかくのご縁を大事にしたいし、就農希望や移住希望の方であればその方の「本気度」を肌で感じられれば、いろいろな方を紹介することくらいならできます。ただ正直なところ、子供がまだ小さく毎日ドタバタ極まりなく、本当に忙しい暮らしなので、どのくらい時間が作れるかは時と場合によるのですが…。
例えば、今年、一番忙しい6月に21歳の学生さんが来られたのですが、こちらがとにかくびっくりするくらい頑張ってくださったので、御礼として、近所のトマト農家さんや、牛農家さん、花農家さんなどにお連れして、ご縁つなぎをいたしました。「視野が広がって勉強になりました!農業ってホントにいろいろなスタイルがありますね!」と喜んでくださいました。
私も若いとき、そうやって旅の中でいろいろな方を紹介いただいて、南阿蘇にたどり着きましたし、沢山のな方に沢山のことを教わってきました。なので、今度は自分が「これからの方」の力になって「農業」や「田舎暮らし」の世界に恩返しをしたいという気持ちで受け入れを続けております。時間の許す範囲にはなりますが、うちで教えられることなら何でもお教えいたします。来てくださる方が、その方なりの「農がある暮らし」を営んでいかれるための基礎となるような学びとなれば幸いです。
2021年9月12日 文責 椛島農園代表 椛嶌剛士